研究内容

背景と目的

気候変動に伴う台風の強大化が予想されています。2013年にフィリピンに上陸した台風Haiyanに代表されるように、近年北西太平洋では非常に強い台風と、高潮・高波による沿岸災害が発生しており、その被害は今後深刻になると懸念されています。一方、2004年のインド洋津波では、マングローブによる減災効果が観測され、沿岸災害の軽減策として「グリーンインフラ」の価値が注目されてきました。しかし、その植林範囲・保全は経験則によるところが多く、多様なハザード・地域性に応じた軽減効果、ライフサイクルやトータルコスト等に関し、科学的・定量的な知見が十分ではありません。

我が国では、2015年11月に閣議決定された「気候変動の影響への適応計画」や、同年3月の国連防災世界会議で発表された「仙台防災協力イニシアティブ」等を踏まえ、適応技術の研究開発普及、途上国に対する適応計画策定・対策実施支援が掲げられています。

本研究では、次の2点を目的としています。第1に、台風による沿岸災害軽減のためのグリーンインフラの導入効果を対象に、台風のダウンスケールからハザード評価とマングローブによる減災効果の統合的モデル開発を行います。第2に、フィリピンをケーススタディとして、グリーンインフラとこれを補うグレーインフラ導入による減災効果とライフサイクルコストを最適化する評価手法をまとめる予定です。

研究の概要

本プロジェクトは,以下の6つのサブテーマにより構成され,幾つかの機関と協力しながら進めています.複数の研究機関・企業は、それぞれの知見や実績を活かし、シミュレーションや現地観測、水理模型実験などの手法を組み合せた研究開発体制を構築しました。本体制により、国内の政府・自治体のみならず、アジア・太平洋島嶼国において、浸水範囲や経済リスクの中長期評価やインフラの整備計画への活用、防災対策の強化などへの貢献を目指します。

  1. 温暖化による台風増加と沿岸ハザード評価(京都大学・防災研究所)
    気候変動に伴う台風特性の変化を考慮し、台風・高潮・波浪の結合評価モデルを開発します。また、グリーンインフラによる減災効果を評価するための高解像度の波伝搬モデルを開発します。これらのモデルを統合することで、沿岸災害・適応策を評価可能なシミュレーションを実現します。
  2. HPC技術適用によるシミュレーションモデルの高度化(NEC)
    NECのスーパーコンピュータの利用技術やノウハウを活かし、沿岸災害のシミュレーションモデルをスーパーコンピュータ上に実装することで、高速かつ効率的に実行します。具体的には、フィリピンの特定地域を対象にシミュレーションを実行し、沖合から沿岸までの減災効果の定量的な検証・評価を行います。
  3. マングローブ分布と機能評価に関する研究(国立環境研究所)
    マングローブ生態系分布情報をフィリピンにおいて収集し、GIS(地理情報システム)データとして整備します。また、マングローブの栽培実験により、環境変動に対する機能応答を検証します。これにより、グリーンインフラによる沿岸保護機能の現状評価、将来予測を行います。
  4. マングローブ波浪低減効果の把握(東北学院大学)
    植生調査、高精度3Dスキャナおよび3Dプリンタ技術を活用し、マングローブの樹種ごとの3Dモデルを作成します。さらに複雑に密集するマングローブ林の模型を作成し、水理模型実験と数値モデリングを行なうことで、波浪減衰効果を定量化します。
  5. グリーンインフラによる減災効果(茨城大学)
    フィリピンにおけるグリーンインフラの物理的特性と初期投資・維持費用をモデリングし、減災効果と費用対効果のシミュレーションを行います。これらのモデリングや現地・文献調査による事例収集を通じて、グリーン・グレーインフラの効果的な組み合わせを検討します。
  6. ライフサイクルを考慮した最適な組合せ(港湾空港技術研究所)
    大規模水理模型実験と流体数値シミュレーションにより、インフラ及び居住地へ作用する波や流れの影響を調査し、耐力を定量化します。さらに、ライフサイクルコストを試算することで、グリーン・グレーインフラの効果的な組合せを検証し、居住地に対する減災効果を明らかにします